鎌倉を代表する寺院のひとつで北鎌倉駅を降りると、そこがもう寺院の敷地のなかになっているという広大な場所。

春は桜、秋は紅葉と季節による美しさが際立っている。今回は秋の紅葉シーズンに来てみたのだが、少し時期遅れにも関わらず賑わっていて、そして美しい庭園が印象的。京都にいるかのような感じがあった。

そしてここは夏目漱石の前期三部作である「門」にも登場する舞台となっている。階段を上がった先にある山門は100年前もまた圧倒的な存在感があったのだとわかる。

 山門を入ると、左右には大きな杉があって、高く空を遮っているために、路が急に暗くなった。その陰気な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との区別を急に覚った。静かな境内の入口に立った彼は、始めて風邪を意識する場合に似た一種の悪寒を催した。
彼はまず真直に歩るき出した。左右にも行手にも、堂のようなものや、院のようなものがちょいちょい見えた。けれども人の出入はいっさいなかった。ことごとく寂寞として錆び果てていた。宗助はどこへ行って、宜道のいる所を教えて貰おうかと考えながら、誰も通らない路の真中に立って四方を見回した。
山の裾を切り開いて、一二丁奥へ上るように建てた寺だと見えて、後の方は樹の色で高く塞がっていた。路の左右も山続か丘続の地勢に制せられて、けっして平ではないようであった。その小高い所々に、下から石段を畳んで、寺らしい門を高く構えたのが二三軒目に着いた。平地に垣を繞らして、点在しているのは、幾多もあった。近寄って見ると、いずれも門瓦の下に、院号やら庵号やらが額にしてかけてあった。

夏目漱石「門」(1910年)

100年前とはちがって紅葉シーズンの円覚寺は観光客で賑わっていて陰気な空気を感じる余裕すらない。それでも、圧倒的な存在感がある山門をくぐり方丈庭園の方へ向かう道の両脇はところどころに建物があったりして、夏目漱石もこの風景を観ていたのかって思ったりする。

山を切り開いてつくられた寺院は奥に進むにつれてストイックな感じになり、禅の修行場である居士林などは凜とした雰囲気が漂っている。俗と禅の境目にたっている感覚。

秋の紅葉の美しさはあるけれど、それ以上に夏目漱石の世界観を堪能するならばもっと冬の頃のような気もするし、自然の美しさを堪能するならば夏場にきて杉林で涼むのもよさそうだ。

所有している仏教藝術の作品も見どころが多く、いまさらながらに鎌倉の奥深さを楽しめる寺院だと思う。

円覚寺
住所:鎌倉市山ノ内409
拝観時間:8:00-16:00(冬期は時間変更あり)

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